基礎知識・歴史

自然栽培・自然農法・自然農の違いは?提唱者と歴史から整理

農薬や肥料に頼らない農業には、「自然栽培」「自然農法」「自然農」など、よく似た呼び名がいくつもあります。これらは、それぞれの時代に独自の考え方を示した実践者たちの歩みから生まれてきた言葉です。四人の実践者の歩みをたどると、言葉の違いがどこから来たのかが見えてきます。

Summary

  • 自然農法:昭和初期に岡田茂吉が無肥料栽培として提唱した流れと、福岡正信が不耕起などを柱に実践した流れが代表的。
  • 自然農:川口由一が実践・普及した「耕さない・肥料や農薬を用いない・草や虫を敵としない」農のあり方。
  • 自然栽培:農薬と肥料を使わない栽培として、青森のりんご農家・木村秋則の取り組みなどを通じて広く知られるようになった言葉。耕うんや除草は行うことが多い。
  • いずれも法律上の定義はなく、同じ言葉でも実践者によって内容に幅があります。

岡田茂吉と「自然農法」:無肥料栽培のはじまり

日本で「自然農法」という考え方を早い時期に提唱した人物として知られるのが、宗教家でもあった岡田茂吉(おかだ・もきち)です。岡田は昭和初期の1930年代から、肥料を使わずに作物を育てる試みを行い、土そのものの力を生かす「無肥料栽培」を唱えました。

岡田の考え方は、その後さまざまな団体に受け継がれ、自然農法の研究や普及活動、独自の基準による認証などが行われています。当サイトに掲載している農家さんの中にも、この流れをくむ「MOA自然農法」や「秀明自然農法」を実践している方がいます。

福岡正信と「わら一本の革命」

愛媛県で農業を営んだ福岡正信(ふくおか・まさのぶ、1913〜2008年)も、「自然農法」を実践した人物として国内外で知られています。

福岡は、人間が手を加えすぎることをやめ、自然に任せることを重視しました。その考え方は、主に次の4つの原則で紹介されています。

  • 不耕起:田畑を耕さない
  • 無肥料:肥料を与えない
  • 無農薬:農薬を使わない
  • 無除草:除草をしない(草を生かして管理する)

稲や麦を刈った後のわらを田んぼに敷き、次の作物の種をまいていく米麦の連続栽培や、さまざまな種を粘土で包んでまく「粘土団子」などの工夫でも知られています。1975年に出版された著書『自然農法 わら一本の革命』は海外でも翻訳されて広く読まれ、1988年にはアジアのノーベル賞とも呼ばれるマグサイサイ賞を受賞しています。

川口由一と「自然農」

奈良県で農業を営んだ川口由一(かわぐち・よしかず)は、慣行農業で体調を崩した経験などをきっかけに、1970年代後半から農薬や化学肥料に頼らない農業を模索し、「自然農」と呼ばれる農のあり方を実践しました。

自然農の考え方は、よく次の3つの言葉で表されます。

  • 耕さない
  • 肥料・農薬を用いない
  • 草や虫を敵としない

草を刈っても田畑の外には持ち出さず、その場に敷いて土に還していくのが特徴です。川口は学びの場づくりにも力を注ぎ、各地で自然農を学ぶ人たちの輪が広がりました。

木村秋則と「自然栽培」

「自然栽培」という言葉が一般に広く知られるようになったきっかけのひとつが、青森県弘前市のりんご農家・木村秋則(きむら・あきのり)の取り組みです。

りんごは病害虫の被害を受けやすく、農薬なしでの栽培は極めて難しいとされてきました。木村は農薬も肥料も使わないりんごづくりに挑み、長年にわたって収穫がほとんどない苦しい時期を経て、ついに実を実らせることに成功します。その歩みは書籍『奇跡のリンゴ』(2008年)で紹介され、2013年には映画にもなりました。

木村の自然栽培は、りんごだけでなく米や野菜にも広がり、各地で講演や指導が行われました。石川県羽咋市のように、自治体やJAが実践塾を開いて地域ぐるみで自然栽培に取り組んだ例もあります。

3つの言葉の違いを整理する

ここまでの流れを踏まえて、よく使われる3つの言葉の違いを表にまとめます。ただし、これはあくまで代表的な傾向です。実際には実践者ごとに工夫が異なり、言葉の使い分けも厳密ではありません。

自然農法自然農自然栽培
代表的な実践者岡田茂吉/福岡正信 など川口由一 など木村秋則 など
肥料使わない(流派により堆肥などを使う場合も)用いない使わない
農薬使わない用いない使わない
耕うん流派による(福岡式は不耕起)耕さない耕すことが多い
草への向き合い方草を生かす考え方が多い草や虫を敵としない作物の生育に応じて除草する

自然栽培は、耕うんや除草、機械の利用などを取り入れながら、現代の農業経営として成り立たせることを重視する実践者が多いのが特徴だといえます。そのため、ある程度の面積で米や野菜を育て、販売している農家さんが多く見られます。

近年の広がり:環境再生型農業との接点

近年は、土の中の生きものや炭素の循環に注目した「環境再生型農業(リジェネラティブ農業)」という言葉も聞かれるようになりました。耕す回数を減らす、地面を植物で覆う、多様な作物を組み合わせるといった考え方には、自然農法や自然農と共通する部分があります。

国の農業政策でも、化学農薬や化学肥料を減らす方向が打ち出されるようになりました(数値目標は有機JASの記事で紹介しています)。かつては一部の実践者の取り組みだった考え方が、少しずつ社会全体のテーマになってきています。

まとめ:言葉より「どう育てているか」を見る

自然農法・自然農・自然栽培は、それぞれの実践者が土や作物と向き合うなかで生まれた言葉です。どの言葉を使っているかよりも、何を使わず、どんな工夫で育てているのかを知ることが、作物を選ぶうえでは大切です。

同じ「自然栽培」を名乗っていても、畑ごとに流儀はさまざまです。都道府県別の一覧で、それぞれの農家さんがどんな言葉で自分の農業を説明しているか、読み比べてみるのもおもしろいはずです。有機栽培との違いは自然栽培と有機栽培の違いで解説しています。

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つちとたね編集部公的機関の資料や生産者の発信を確かめて書いています。誤りにお気づきの際はお知らせください。