肥料なしで作物が育つのはなぜ?自然栽培を支える土と微生物の仕組み

「肥料を使わないで、本当に野菜やお米が育つの?」——自然栽培について、いちばん多く聞かれる疑問のひとつです。植物が育つには養分が必要なのは確かですが、その養分は肥料だけから来るわけではありません。土の中で何が起きているのかをたどりながら、肥料を使わない栽培の難しさにも触れていきます。
Summary
- 森や草原では、誰も肥料を与えなくても植物が育ち続けている。
- 養分の供給源には、土にたまった有機物、微生物による窒素固定、草や根の分解、雨や水などがある。
- 田んぼは水から養分が補われるため、無肥料でも比較的収量を保ちやすいといわれる。
- 一方で、自然栽培は慣行栽培より収量が少なくなりやすく、切り替え直後は不安定になりやすい。
ヒントは「森」にある
山の森では、誰も肥料をまいていないのに、木々が毎年葉を茂らせ、実をつけます。落ちた葉や枯れた草、生きものの亡きがらは、土の中の虫や微生物によって分解され、再び植物の養分になります。
このように、自然の中では養分が循環しています。自然栽培は、この循環の仕組みを田畑の中でできるだけ生かそうとする農業だといえます。
植物に必要な養分と、その出どころ
植物が育つには、窒素・リン酸・カリウムをはじめ、さまざまな養分が必要です。肥料を使わない場合、それらはどこから来るのでしょうか。
1. 土にたくわえられた有機物(地力)
土の中には、長い年月をかけてたまった有機物があり、微生物がそれを少しずつ分解することで、作物が吸収できる養分が生まれます。こうした土が本来もっている養分を供給する力は「地力(ちりょく)」とも呼ばれます。
2. 微生物による「窒素固定」
空気の約8割は窒素ですが、植物はそのままでは空気中の窒素を利用できません。ところが、一部の微生物は空気中の窒素を植物が使える形に変える力を持っています。これを窒素固定といいます。
- 根粒菌:大豆などのマメ科植物の根に「根粒」というこぶをつくってすみつき、窒素を植物に供給します。自然栽培で大豆や緑肥のマメ科植物を輪作に取り入れる農家さんが多いのはこのためです。
- 土や水の中の微生物:植物と共生せずに単独で窒素固定を行う細菌や、田んぼの水中にいる藍藻(シアノバクテリア)の仲間も、窒素を供給しています。
3. 根と共生する「菌根菌」
多くの植物の根には、菌根菌と呼ばれるカビの仲間がすみついています。菌根菌は根よりもずっと細い菌糸を土の中に張りめぐらせ、植物が自力では届かない場所からリンなどの養分や水を集めて植物に渡します。そのかわりに、植物は光合成でつくった糖を菌に分けています。
4. 草や作物の根、収穫残さ
刈り取った草をその場に敷いたり、収穫後の茎や葉、稲わらを田畑に戻したりすると、それらがゆっくり分解されて養分になります。土の中に残った根も、分解されると土の中に通り道をつくり、次の作物の根が伸びやすくなります。
5. 雨や用水
雨水や、川や山から引いた用水にも、わずかながら養分が含まれています。とくに田んぼは長い期間水を張るため、用水から養分が補われる効果が大きいといわれます。
田んぼは無肥料でも収量を保ちやすい
水田は、水を張ることで土が酸素の少ない状態になり、畑とは違う微生物の働きが生まれます。用水から養分が運ばれ、水中の藍藻などによる窒素固定も起こります。
こうした理由から、稲は無肥料でも一定の収量が得られやすい作物だとされています。国内で長く続けられている肥料試験でも、肥料を与えない区画で、肥料を与えた区画より少ないながらも稲の収穫が長期間続いていることが報告されています。自然栽培に取り組む農家さんに米農家が多いのは、こうした背景もあります。
「団粒構造」がふかふかの土をつくる
微生物やミミズなどの土の生きもの、植物の根が活発に働く土では、土の粒どうしがくっついて小さなかたまり(団粒)ができます。これを団粒構造といいます。
- 団粒と団粒のすき間から余分な水が抜け、水はけがよくなる
- 団粒の中の小さなすき間に水がたくわえられ、水もちもよくなる
- 空気が入りやすく、根が伸びやすい
自然栽培の農家さんが「土をつくる」というとき、肥料で養分を足すことより、こうした土の生きものが働きやすい環境を整えることを指している場合が多くあります。
自然栽培の農家さんの工夫
「肥料を使わない=何もしない」ではありません。自然栽培の農家さんは、次のような工夫を重ねています。
- 適地適作:その土地の気候や土に合った作物・品種を選ぶ
- 輪作と混植:同じ場所で同じ作物を続けて育てず、マメ科などを組み合わせる
- 草の管理:草を刈って敷く、生やす場所と刈る場所を分けるなど、草を資源として生かす
- 耕し方の工夫:水はけをよくするために深く耕す、あるいは耕さずに土の構造を保つなど、畑に合わせて判断する
- 自家採種:その畑で育った株から種を採る(固定種・在来種・F1種の違い)
また、実践者の中には、過去に使った肥料の影響が土に残っていると考え、それが抜けるまで数年かけて土を整える、と説明する人もいます。これは実践者の経験にもとづく考え方で、科学的に十分に検証されたものではありませんが、切り替えてすぐは作物が育ちにくいという経験談は多く聞かれます。
自然栽培の課題も知っておこう
自然栽培には魅力がある一方で、次のような課題もあります。
収量が少なくなりやすい
同じ面積から採れる量は、慣行栽培を下回ることがほとんどです。
安定するまで時間がかかる
田畑を切り替えてから収穫が安定するまで、数年以上かかることがあります。
土地による差が大きい
もともとの土の性質や気候によって、向いている作物や成果が大きく変わります。
手間がかかる
除草や虫への対応など、手作業が増えることが多く、労力が必要です。
自然栽培の農産物の価格には、こうした農家さんの時間と工夫が含まれています。
土の中で起きていること
肥料を使わなくても作物が育つのは、土にたくわえられた養分、微生物による窒素固定や養分の橋渡し、草や根の循環、水の恵みが組み合わさっているからです。自然栽培は、それらの働きを引き出すための観察と工夫の積み重ねで成り立っています。
実際にどんな工夫をしているかは、農家さんによってさまざまです。都道府県別の農家さん一覧から、それぞれの取り組みを読んでみてください。有機栽培との違いはこちらの記事で解説しています。